出版翻訳の仕事をしていると、よく言われます。
「出版翻訳だけで食べていけるの? いけないですよね、いくらなんでも。そんな人聞いたことがないし」
「出版翻訳ほどお金にならないものはないってよく言われるけど、実際どうなの? 割に合わないですよね」
いやらしい話ではありますが、お金の話は避けては通れないので、ここで最初の翻訳書でいくら入ってきたか、赤裸々にお話ししましょう。
出版翻訳の場合、たいていは印税契約になります。つまり、たくさん売れれば売れるほど入ってくるのです。ですから万が一、大ベストセラーにでもなれば、入って来るものも青天井。
でも、現実は、そんな話はほとんどありません。昨今では、ほとんどは初版どまりと言われています。
では、私の場合、最初の翻訳書でいくら入ってきたのか。
印税率は、古き良き時代は8%と相場は決まっていたようですが、出版不況が続き、8%が7%に、7%が6%に、6%が5%に、5%が4%という風に、だんだんとそのしわ寄せが翻訳家にやってきているようです。特に新人翻訳家は、実績も乏しいゆえに、叩かれることが多いようです。
といっても、翻訳家と出版社が合意のもとに契約が結ばれるので、嫌なら最初から出版しなければいいのです。
しかし、大半の人は、自分の翻訳書が出ることを望んでいる。そういうわけで、出版社の言いなりにならざるを得ないという側面もあります。
私の場合、最初の翻訳書は、本当にふってわいたような話だったため、出版社の言いなりでした。とにかく私としては、自分の名前で翻訳書が出るという夢の夢の夢の話。断るわけがありません。
条件は最初にこう言われました。
「初版は5000部、定価は1200円、印税は5%です。それで良ければウチで出したい」
もちろん、断るわけもなく、すぐにOKしました。
よく、「一冊売れればいくら入る」という風に印税を計算する人がいますが、実際に売れた部数で計算されるよりも、印刷した部数で計算されることが多いようです。私の場合も、印刷部数での計算でした。
私の場合、5000部を印刷しましたので、それをベースに計算されました。その計算式は以下のとおり。
5000部×1200円×0.05=30万円。
10%の源泉所得税が引かれますので、実際に振り込まれたのは27万円。
その後、重版となりましたが、重版部数は1500部。
重版も印刷部数で計算された印税をいただけました。
1500部×1200円×0.05=9万円。
10%の源泉所得税が引かれて、振り込まれたのが81000円。
というわけで、最初の翻訳書を出して入ってきたのは、35万1000円だったわけです。
約200ページを訳して、それだのお金が入ってきたわけですが、お金よりも、当時の私としては、自分が惚れ込んだ本を自分の手で訳したものが書店に並んだことの方の精神的な喜びのほうが何十倍も大きかったのは言うまでもありません。